最近、あまりにも忙しくて
はてなブログを更新する余裕がなかった。
ちょっと悲しい。
その間に、はてなブログは1周年を迎えていたり
東京の新オフィスが女子をこじらしていたり
どうぶつの森のプレイ日記が
書きやすくなっていたりしていた。
世の中って本当にスピードが速いなあと思うけど
とはいえ、その流れに抗ったって無駄だし
また、無理に乗っかろうとする必要もない。
そんな世界の中で、今日も無事に生きて
ブログを書ける喜びをかみしめられたらいい。
★
さて、今日は、久しぶりに僕の仕事仲間の話。
アバンギャルド先輩である。
彼はいわゆる「数字を持っている」人間で
そういう意味では会社では「優秀な」会社員なのである。
(僕は「優秀な人」とか「できる人」とかいう言葉が嫌いだが)
そして、プライベートでは前衛的な音楽アーティストとして活動していて
海外でも活動が報じられるくらい、「その道」では有名らしい。
ちなみにこのアバンギャルド先輩は
トラブルメーカー先輩と犬猿の仲で
お互いに無駄に嫌いあっている。
トラブルメーカー先輩の話は前にちょっと書いた。
http://inujin.hatenablog.com/entry/2012/10/13/000000
で、たぶんその原因のほとんどは
トラブルメーカー先輩にあるのだろうけど
僕にとっては、トラブルメーカー先輩のダメさ加減を
笑って許せるかどうかが
その人の度量の深さ加減と思っているので
まあそういう意味ではアバンギャルド先輩は
そんなに心の広い人間ではないのだ。
★
で、アバンギャルド先輩は
この「優秀な会社員」と「前衛芸術家」という
2足のわらじを両立させながら生活している。
僕は何度か彼の音楽を聴きに行っているけど
本当にすごかった。
この人は、体の中に、大量のエネルギーを持っているんだな、
と思ったし、ちょっと感動もした。
当然のごとく、僕は聞いた。
先輩は、アーティスト1本で生きていくつもりはないんですか。
すると彼は、いつも同じような質問をされ続けているのだろう、
ちょっと食傷気味に、しかし誇らしげに言った。
「そのつもりはないね。僕は偉大なるアマチュアでいいんだよ」
それはなぜ、とまで聞くつもりはなかった。
たぶん、アーティストとして食べていくのは
とても大変なのだろう。
彼には家族がいるし、マンションのローンも残っているし
まあ、そういうことなのだ。
僕はあいまいにうなずいて
それ以上、この話題を広げようともしなかった。
★
それからしばらくして、僕はアバンギャルド先輩と
仕事のことで、ちょっと揉めた。
直接の理由は色々あって、結果的には
僕が我慢できずにキレたので、まあ僕が悪いのである。
それにしても、あまりにも彼は
僕の仕事に対する思いに無頓着だった。
こんな内容のことを依頼したら
制作者としては気分悪いんじゃないかな、とか
やりにくいんじゃないかな、とか言うことを
平気で頼んでくる。
で、僕が不機嫌なことに気づくと
食事に誘ったりして懐柔しようとするのだけど
何が問題であるのかには気づいていない。
まあ、そんなことは仕事の中では
日常茶飯事であって、
何を怒っているのだろうと
自分でも思うことはあった。
それでもなぜか腹が立つのはたぶん、
「自分も音楽における表現者であるのに
なぜ同じ表現者の気持ちがわからないのだろう」
ということなのだと思う。
つまり、僕はアバンギャルド先輩に対して
自分のことを理解してくれるのではという
甘えがあったのだろう。
★
揉め事があってからしばらくして
僕は彼を昼食に誘った。
で、僕は自分が感じていることを
できるだけ正直に話してみた。
彼は彼なりの真摯さをもって話を聞いてくれた。
そして、僕が話し終わると、深くうなずいてから言った。
「なるほど、いぬじん君の気持ちはよくわかったよ。
君がそこまで仕事に対して真剣なのは知らなかった」
それから彼はすごく良いことを思いついたように
目をキラキラさせて、続けた。
「だからこれは親切心からのアドバイスだけど
やっぱり君はこの会社とか広告代理店とかで
働くには向いてないんじゃないか?
もっとクリエイティブな世界に移ったほうが
いいのじゃないかい?」
僕はがっかりしてしまって
あいまいな表情を顔に浮かべるがせいぜいだった。
そういうことを求めて話をしたんじゃない。
お互いに表現の世界に生きる者同士、
少しずつ歩み寄ろうぜと、そう言いたかっただけなのだ。
要は、彼は自分が昼間に属している世界に対しては
一切の表現やクリエイティブの要素を求めていないし
それを認めるつもりもないのである。
あくまで商売のための手段として
機能しているようなものなど
表現でも、クリエイティブでも、
そしてもちろん芸術でもないのである。
★
たぶん、彼の言っていることのほうが正しいのだろうし
そういう考えでいたほうが、ずっと楽なのだろう。
商売と芸術は別物だ、と割り切っているのだから
ある意味、彼のほうが僕よりも潔癖なのだ。
しかし、僕は思うのである。
世の中には、色んなことを
割り切れずに生きている人間がたくさんいるのだ。
そして、その割り切れなさの中に
悩みがあり、悲しみがあり、そして喜びがある。
そういうドロドロ、グチャグチャしたことを
知っている人間じゃないと
本当に共感できる表現はできない。
もしアバンギャルド先輩が
本当に偉大なアーティストであるならば
彼だって、色んな矛盾に直面しているはずだし
それに鈍感でいられるとは思えない。
きっと、彼だってさまざまな問題を抱えながら
必死に戦っているのだろう。
おそらく、僕以上に真剣に。
その悩みを昼間の仕事に持ち込むのは
彼には耐えられないことなのだと思う。
★
インターネットの普及とともに
垣根が低くなっていった。
今やプロではない人のほうが
ずっと面白いものを作れたりもする。
もはやプロとかアマチュアとかいう言葉自体も
意味を失いつつある。
だったら余計に思う。
表現をする者としての辛さだったり
苦しみだったりを、より多くの人が体験しつつあるはずだ。
面白い企画を考えつけない苦しさや
一度ヒットして調子に乗ったあと
すぐに相手にされなくなる時の孤独感、
そしてほんのわずかでも
自分の試みに賛同してくれた人々が
いたときの喜び。
それらをお互いにもっと共有しあおう。
馴れ合いではなく、本当に努力している相手には
惜しみなく敬意を払おう。
その時にはじめて、何かが次の段階へと
進むんじゃないだろうかと思っているのである。