ぼくが広告会社で働いていると知ると、代理店って大変だよねとか、あいだに入っているだけで何も生み出さないのって辛くないですかとか言われるので、いえいえとても楽しいですよ、と答えると、みんながっかりした顔をする。
たしかに、ぼくはいつも人と人のあいだに入って仕事をしている。
クライアント企業とクライアントのお客さんとのあいだに入り、メディアと広告担当者とのあいだに入り、タレントと制作者とのあいだに入り、なんてのはまあ当然で、最近はクライアントとクライアントとのあいだに入り、組織と組織とのあいだに入り、チームとチームとのあいだに入り、個人と個人とのあいだに入って、こうやって一人でブログを書くとき以外はだいたい誰かと誰かのあいだに入って働いているのである。
家族だってそうで、ぼくはいつも妻と子どもとのあいだに入って自分のできることをやっているし、あるいは子どもが通う学校と子どもとのあいだに入って保護者という役割をやっているし、それは会社の仕事だろうが家庭生活だろうがたいして変わらない。
もちろん、ぼくだって誰かと誰かのあいだに入るということがもともと大好きだというわけではない。
学生の頃は一人でいる時間が大好きで、団体行動は大嫌いだった(今でもまったく好きではない)。
人に合わせるのも苦手で、変だなと思った意見や、合わないなと思った考えには絶対にうんと言いたくない。
だから、働き始めた若い頃はどれだけ誰かと誰かのあいだに入っても、絶対に自分の考えを譲らなかった。
それは今でもあんまり変わってはいない。
なんか無理に面白いこと言わないといけない雰囲気の集まりや、ひたすらエライ人にゴマをすらなきゃいけない飲み会には行かないことにしている。
それじゃ、そんな人間がどうして人と人のあいだに挟まれて、機嫌よく暮らしていられるのだろうか。
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実は、大事なのは、そういう頑固な自分の存在だと思う。
はっきりとこだわりがあって、明確に自分の好きなものがあって、自分一人の時間が好き。
だからこそ、人と人のあいだに入っても、自分を見失わないのである。
間違ってはいけないのは、人と人のあいだに入るということは、何かはじめから自分があいだに入る場所が決まっていて、絶対にそこから抜け出してはいけない、ということではないのだ。
自分が付き合いたい人、一緒に仕事したい人、ぜひ会ってみたい人、そういう人と人のあいだを選んで自分から入っていけばいいだけなのである。
そのためには、自分が一番前を走っていればいい。
人と人のあいだに入りながら、お互いに手を取り合って、さあ前に進もうぜと力強く走り出せばいい。
もちろんついていけないという人も出てくるし、あるいは自分よりももっとすごい力で走っていって思い切り振り回してくる人もいるだろう。
だけど、本当にそれがやりたいのかどうかを、頑固な自分の胸に手を当てて聞いてみて、それでもイエスというなら、やっぱり走り続けたほうが良い成果が得られることが多いと思う(たとえそれが失敗であってもすばらしい経験となることがほとんどだ)。
あるいは、どうしても自分が一番前を走ることができない場合もあるが、その場合でも、自分が大事にされて気分よく仕事できるなら、それも楽しい。
これは君にしかできないから頼んだよとか、いやあさすがプロだねとか言われると、ついつい実力以上の力を発揮してしまったりする。
ああうまく乗せられちゃったなと思うけれども、まったく嫌な気はしなくて、また声をかけてもらえたら、ご機嫌でその人と人とのあいだに入るだろう。
そのへん、ぼくはかなりちょろい。
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さて、問題は、いつでもどこでもそうやって、好きな人と好きな人のあいだに入っていられるわけではない、ということだと思うが、だとすれば奥の手で、自分が手を取り合っている人たち全員を好きになればいいのである。
実はこれはけっこう簡単なことで、なぜなら、あなたがその場を抜けることができないのは、そこにいる人たち全員から必要とされているからなのである(そうでなければさっさと脱出することをおすすめする、そこにつまらないプライドは不要である)。
ああなんてかわいそうな人たちだろう、自分がいなければ何もできない、かわいそうで、孤独で、不幸な人たち、彼らを助け、幸せに導くことができるのは自分だけなのである。
さあだんだん力がみなぎってきたはずだ、それもそのはず、この停滞した状況を打破し、みんなを導くことができるのは、あなたしかいないからである。
自信を持って、歩き出そう。
ほら人と人のあいだに入って、手に手を取り合って、力強く一歩ずつ前に進んでいけば、ちょっとずつみんなの表情がやわらかくなって、ちょっとずつ元気が戻ってきて、足取りも軽やかになり、気が付くと全員が笑っている!
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もちろんそんなうまく行くことばかりではないのだけれども、そうやってぼくはいつも人と人のあいだに入って、ちょっとでも人生を楽しくしていきたいと思ってもがいている。
ぼくはいつだって自分が大好きで、もっと幸せになりたいと思っていて、そういう気持ちを一番大事にしている。
だからこそ、ぼくは人と人のあいだに入る。
人間同士が頭と心と体を寄せ合って、アイデアと行動を生み出す瞬間が、最高に幸せだと思うからだ。
というような話をしても、またがっかりされるかどうかもしれないけれども。