ごはんのおかわりを、甘く見るな。



おっさんがお店でごはんのおかわりを頼む時は、細心の注意を必要とする。

それは、戦いだ。

出てくる食事の特性を見極めて、おかずとごはんとのバランスを用心深くコントロールするだけではなく(そんなものは子供の頃に習得しておけ)、いかにおかわりをスムーズに、かつベストなタイミングで頼むのかも、完全に掌握しておかなければいけない。

何も考えずにお米を口に放りこみ、ガツガツガツとおいしく食事をいただいて、おっとごはんがなくなった。

すみませーん、ごはんのおかわりをくださーい。

もう、生きている資格がない。

品がない、なさすぎる、そんな天真爛漫な食いしん坊キャラが通用するのは20代までだ。

おっさんたるもの、すでに勝負はお店に入る前から始まっていることを知っておくべきである。

まずはざっとお店を見回して、店員さんのキャパシティを先に把握しておかなければいけない。

ぱっと見て、明らかにお客さんが多く、店員さんは注文を取るので精一杯な状態であれば、その時点でどうも今日の戦いは厳しいものになりそうだと気を引き締めるのが当然であろう。

そんな状況で無邪気にごはんを食べ尽くし、ずっと遠くの店員さんめがけて。

すみませーん、ごはんのおかわりをくださーい。

まったく気づく気配はないので、あせってさらに大声を張り上げる。

すみませーん、おかわり、くださーい。

おかわりを、くださーい。

おかわりを、お願いしまーす。

すみませーん、おかわりー。

お、か、わ、り。

すみませーん、すみませーん、すみませーん。

すみませーん。

ただただ許しを乞い続けるおっさんに、周囲の憐れみ深い視線が突き刺さる。

たっぷりの恥を背追い込んで自暴自棄のクリーチャーと化したおっさんには、もう力の限り叫び続けることしか残されていない。

おかわりを!

この醜いわたくしめに、どうか、どうかおかわりをくださいませ!

おお、どうかおかわりを!おかわりを!

ついに願いは聞きいれられた。

明らかにどん臭そうな店員さんがゆっくりとした動作でこちらに近づいてくる。

もう少し、あと少し、どうか誰も彼を呼び止めないでくれ、頼む、頼む、どうか頼む、ああ来た、やっと来てくれた、ありがとう、本当にありがとう、君が生まれてきたこの世界に、ありがとう、だから今一番伝えたいことを、伝えよう。

「すみません、ごはんの・・・ごはんのおかわりをください」

すると店員さんはこちらの顔を一瞥してから、日頃から作り慣れているであろう申し訳なさそうな表情になって言う。

「あーごめんなさい、うち、ごはんのおかわりはできないことになってるんですよねー」


だから言ったのだ。


これは、戦いなのだと。