夜中にね、お菓子を食べてしまうのよ。
彼女は言う。
それからため息を1つついて、薄焼きせんべいの袋を迷いのない手つきでバリバリバリと空ける。
せんべいはさらに透明の袋でもって個包装されているのだけど、彼女の一連の作業はスムーズで。
結局、家に帰ってきた時にはもう疲れきっていて、体力がまったく残ってないの。
だから、とりあえず昨日の残りでもなんでもいいから口に入れるでしょう。
そう言いながら薄焼きせんべいをパリパリと食べる。
パリパリ、パリパリ。
子供はみんな寝静まった、深夜の食卓。
わずかにキッチンの小さな明かりだけ。
とにかく、なんでもいいから、お腹の中に入れるのよ、そうじゃないと動けない。
それから料理をして、洗い物をして、子供たちをお風呂に入れて。
パリパリ。
あの子たちを寝かせて、洗濯物をたたんで、明日の用意をして、明日の仕事の予定をもう一度チェックして。
彼女は工程を数え上げながら、スムーズに新たな薄焼きせんべいを取りだす。
本当は、そこで寝てしまえたら、いいのにね。
やっとゆっくり眠れると思ったら、お義母さんから電話がかかってきて。
パリパリ。
それから、あなたが帰ってきて。
パリパリ、パリパリ。
人が食べているのを見ると急に食欲がわいてくるじゃない?
で、結局、こうやって、夜中にお菓子を食べてることになるの。
こんな夜中に。
僕はただ、真夜中の食卓に響くパリパリを、じっと聴いている。
パリパリ、パリパリ。
今日という一日が、無事に終わりを迎えようとしている。