決断しないという、世にも恐ろしい挑戦。







ディナーの店を決められない男について - hellohana!!

id:hellohanaさんのこのエントリを読んで、
今日もあいかわらず男女の間の誤解は、
生まれ続けているんだなあと思った。


男性がディナーの店を決められないと、
氏の中では、以下のように心が動くそうである。


・まず、そこそこ大人な男性なら良い店を知ってて当然でしょ。

・だいたい、お前が「じゃあ恵比寿で」と言ったんだから恵比寿で良い店を知ってて当然でしょ。馬鹿か

・んでもって食べログのURLを送ってきて「ここでいいかな?」ってアホか……

・そういうのはせいぜい3回目以降のデートで、お互いに雰囲気を掴めて言いたいこと完全に言えるようになってきてからでしょ。

・たとえ食べログで調べて知った店だとしても、知ってたテイで行けよ。アホか。

・連れてった店で女が美味しくないって言ったら「じゃあ帰れ!」っていうような気概で来てほしいわけ

なんというか。。。優しさと決断力のなさは違うと思うのよ。


念のためフォローしておくけど、氏はこの文章をお酒を飲んだ勢いで
書かれていたそうで、あとで反省されている。


しかし、当の男性のほうでは、女性の中でこういった心の動きが
起こっているとはつゆ知らず、間違った仮説を持ち続けてしまうかもしれないので
こういった事態を避けるためには、非常に重要で役に立つ情報だと思うのである。


このシーンで、男性が立案している戦略は、非常にシンプルである。


失敗したくないのである。


相手の女性に「おいしい」と言ってもらうことよりも、
「おいしくない」と言われるリスクのほうを避けたいのだ。


では、ここで問題。


たしかにこのようなアプローチに対して、幻滅する女性がいるにもかかわらず、
その一方で、この男性がなぜリスク回避的な選択をしたのか。


簡単だ。

嫌われたくないからである。


だから、自分1人で何かを決断するどころか、

氏が言うような「オレのおすすめの店が気に入らないなら、帰れ!」などと

タンカを切る行為なんて、到底できないのだ。


しかし、嫌われたくないと思って選択したリスク回避的行動が
結果的に相手を幻滅させてしまうことになるとは。


なんとまあ男女の心の機微というものは難しいものである。





この話は、コミュニケーションにおける「不戦敗」の典型だと思う。


「戦わずして破れていく」場合の状況には共通点があって、
それは相手に好意を持ちすぎていたり、尊敬しすぎていたりする時だ。


そうなってしまうと、絶対に相手をイヤな気分にしたくない、
と思うあまり、大胆な施策を選べなくなってしまう。

常に相手の出方を見て、それに合わせていくようになる。

戦う前に、戦いは終わっているのだ。


いや、これは間違った表現かもしれない。


実際は、凄惨な戦いが起こっている。





もう何度も柄谷行人氏の言葉を借りているが、
コミュニケーションとは「命がけのジャンプ」である。


自分自身が相手に受け入れられる保証はどこにもなくて、
それでもなんとかあちらへと跳んでいきたいと、決死の覚悟で行うものである。


そういう意味では、「ディナーを決められない男」は、
一見何の跳躍も行っていないように見える。


しかし実際は、彼はものすごい長い距離をジャンプしてみせ、
思いきり着地に失敗して、複雑骨折をしている。


「こうすれば、自分は嫌われずにいるんじゃないか」という大胆な仮説を自分で立てた結果、
「自分では決断をしない」という猛烈な走り込み×大ジャンプを選択したことによって
とんでもない事故を起こしているのだ。


だがまあ、彼の中だけで起こっているこの惨劇は、
相手の女性はもちろんのこと、彼自身も気づいていない。

これはあまりにもむごたらしい事故である。





僕らはとても無力だから、できることなんてほとんどない。


すなわち、このような惨劇が日々の暮らしの中で
起こっていることに自覚的でいること。


そして、もし周りに「自分では何も決断しない」という
アクロバティックな大技を決めようとしている人がいたら
彼の行く末に幸運があるようにと、そっと祈ってやることだけだ。