今からすごく当たり前のことを書くので、面白くなかったらごめんなさい。
最近、僕はようやく「自分を半人前のままにしておく」ということを覚えはじめた。
それまでは、「早く一人前にならなくちゃ」という意識ばかりが強かったのだけど
あきらめというか、開き直りというか、もう完璧な人間でいるのをやめようと思ったのである。
もっと言えば、一緒に仕事する人をめっちゃくちゃ頼ってる。
「あなたがいないと僕は何にもできないんです」的な空気を出しまくる。
すると大抵、相手はこっちを軽蔑と憐れみのまなざしで見たあと、小さなため息をついてから言う。
「じゃあ、まずここから始めましょう。最初に必要なことはですね・・・」
そして自分のアイデアの引き出しをちょっと見せてくれたり、
僕には到底できないような素晴らしい技で(しぶしぶ)助けてくれたりする。
何を当たり前なことを、という方、本当にごめんなさい、ごめんなさい。
ただ、これまで僕はこんな当たり前のことを知らなかった。
正確に言えば、それがれっきとしたスキルだったり能力だったりすることを知らなかった。
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表現者は、いつも孤独である。
他の表現者は、自分よりも新しい表現を開発する可能性を秘めた恐ろしい敵であるし
協力者に対しても、常に自分がどう見られているかばかり気になって、緊張しっぱなし。
家族からは、あなたの仕事なんてどうせ趣味なんだから、と、まったく理解は得られない。
そんなわけで、僕らは武装する。
自分はアイデアをあふれるほど持っている人間である。
とても思慮深くて、軽々しい行動はしない。
周りのつまらない意見になど振り回されない。
そういう人間に見せようと必死に武装していくので
どんどん近寄りがたい人間になっていくし
せっかく力になろうとしてくれている人がいても全力で遠ざけたりしてしまう。
そうやって、どんどん、一人ぼっちになっていくのである。
もちろん商才のあるクリエイターは、自分の味方を作っていくのがうまいし
上手に「セルフブランディング」しながらも、人づきあいも良い。
しかし、そんな人でも、やっぱりどこかに、深い闇のような孤独を抱えている。
それは、同業者が見れば、わかる。
まあ、孤独というものは、表現における燃料みたいなものだから、必要なものではある。
しかし、あの「オレは表現者として完璧な人間でいなければいけない」という強迫観念は恐ろしいもので
それと孤独との化合物の劇薬ぶりといったら、なかなかに大変なものだ。
僕は長らく、その苦しみに耐えてきた、といったら偉そうだが
要は、早く完璧な表現者にならねばと焦ってきた。
それが、最近になって、ムダな努力のように思えてきたのである。
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きっかけは色々あるが、そのうちの1つとして
とある「職業オネエ」の方と一緒に仕事をしたのも大きい。
その人は、普段はれっきとした男性なのだが、仕事の時だけオネエに変身する。
そういう人間はオネエの世界では、すごく嫌がられるらしいのだが
彼はそれもわかった上で、その役を演じているのである。
それはなぜか?
オネエというのは男でもあり、女でもあり、またそのどちらでもない。
だからこそ、一種の「超法規的存在」としての発言が許される。
彼(彼女?)の言葉は、男としてのメリットを考えて発されるわけでもなく
女としての打算が含まれているわけでもない。
なぜならオネエはすでに「そういう勝負の場」から降りているからである。
だからオネエの言葉には真実味があるし、重みがあったりもする。
彼はそういうことを理解した上で、あえて勝負から降りてみせる。
彼は「職業オネエ」になることで、
もう自分が男として魅力的に思われたいとか
女として幸せになりたいとか
そういう勝負からは降りますよ、という宣言をするのである。
そして、それと引き換えに、彼が本当に伝えたいことを伝える。
彼が職業オネエになるのは、今から伝えようとしていることが、
どれだけ本気であるか、その覚悟を見せるためなのだ。
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そういうきっかけがあって、僕はやっと気づいた。
自分がどう思われているかとか、どう見られているかとかを気にして、
早く一人前になりたいと思っているあいだは、僕は永遠に半人前なのである。
本当に、自分が実現したいと思うことがあった時、
人はなりふりなんてかまっていられない。
そこにあるのは、どう見られているか、ではなく、
どうすれば目的を達成することができるかどうか、それだけだ。
そして、その夢のためなら、できることはなんでもやる。
助けが必要なら、いくらでも人を頼る。
頭を下げればすむなら、いくらでも下げる。
だから、いつだって自分を半人前の状態にしておいて
余計なプライドやら羞恥心やらに、とらわれないことが大切なんだ。
そういう当たり前のことに、いまさら気づいた。
もうすっかり大人になってしまったけど、
最近、僕はやっと半人前になれたんじゃないかなと思う。