犬だって言いたいことがあるのだ。

ものごとをひとつ先に進めるアイデアについて考えています

おじサマーの、はじめかた。









夏は、中年男性にとって、もっとも危険な季節である。



ここのところ加齢による基礎代謝の減退のせいで、めっきり寒さが苦手になってしまったため、今年も暖かくなるのが普通に待ち遠しかったし、さあいよいよ夏だなと思うと、もう心の高揚を抑えきれない。


しかし、である。


やっほい夏が来たぜ、夏だ、半袖だ、クールビズだとはしゃいでいそいそとポロシャツを押し入れから出してきた時点で、あなたはすでにリスクに首をつっこんでいる。

まず無臭仕様ではない防虫剤をお使いの方は、その臭いに気をつけねばならぬ。

たかが防虫剤とあなどるなかれ、その揮発性を保有した臭いは、中年男性特有のアレと絶妙なバランスでブレンドされることで相当な威力と拡散力を持つ代物となり、満員電車の中でそのポテンシャルを遺憾なく発揮することになるだろう。

また、恐ろしいのはその臭いに、自分自身はなかなか気づかないことである。

どうもご自身の鼻に自信のない諸兄におかれては、まずは何も考えずに一度洗い直すのも手かもしれない。


しかしまあ臭いというのはどうもやっかいな悩みであって、気にし始めると強迫観念にとりつかれてしまったり、あるいは対策をやりすぎてしまって香水なんかをプンプンさせているのもなかなかみっともない。

どうしても気になってしかたないという方は、ロクシタンのボディローションやクリームなどを耳の後ろあたりに、ほんのわずかだけつけてみてはどうだろう。

最近は男性用のものもある。

ほんのりといい香りがすると、周囲もそうだが自分自身がリラックスした気持ちになることができる。

おっさんには、リラックスして終始ご機嫌でいる様子が一番似合う。

細かいことをああだこうだと気にしているようでは、到底かっちょいい中年とは言えないのである。


ああいけない。


そのポロシャツのボタンを開けてはいけない。


ポロシャツというのは通常のシャツと異なり、ボタンとボタンとの距離が思いのほか離れている場合がある。

自分としては軽く一番上のボタンだけを外したつもりでも想定外に胸元が見えてしまっていることがあるのだ。

この現象を評して、ある20代半ばの女性からは「なんだか見てはいけないものを見てしまったような気持ちに襲われる」という非常にオブラートに包んだ言葉をいただいたことがある。

どうか、どうか出かける前に、ボタンを外した状態で一度ご自身の姿を鏡でご覧になり、その外し具合で問題なさそうか、いま一度ご確認いただきたいものである。


ちょっと待って。


出かけるのはまだ早い。


鏡を覗きこんだついでに、中年男なりの笑顔の練習をしてみてはいかがだろう。

この場合は変にニヒルな笑いを浮かべてみようとかつまらない考えはやめて、満面の笑みがよろしい。

あるいはウインクができる人は、どうすれば素敵なウインクに見えるのか色々と試すのも面白い。

僕の研究経過では、どうもウインクは、そのやり方がどうとかではなく、ウインクによって何を伝えようとするか、そこが大事なようで、片目をつぶりながら心の中でそれを相手に語りかけるのが良いようだ。

ただ、重要なのはさっきも申しあげたがリラックスしていることであり、くれぐれも、心焦るあまり相手に違うことが伝わらないよう祈る。

いずれにしたって笑顔は最高のおしゃれであることは何歳になっても変わらない。

むしろ年をとればとるだけ心の余裕を持ちたいところである。

眉間にしわを寄せて難しそうな顔をした中年男は、それだけでアカンほうの事件の香りがしてしまう。


はい、笑って、笑って。


さあて。


最高に素敵な笑顔を作れたら、いよいよ今年の夏へと出かけよう。

この時、足取りは徹底的に軽いほうがよろしい。

できる方はちょっと口笛を吹きながら、変質者と思われない程度の抑制を効かせつつも、浮かれた感じの軽快なステップを踏んで、ギラつく太陽の下をさわやかに歩いていこう。

あなたは若者の憧れにならなければいけない。

畜生、オレも早くおっさんになってあんな風に毎日ヘラヘラして生きてやるんだと、心の底から嫉妬される存在にならなければいけない。

口惜しそうな表情を浮かべる若い人たちに、あなたは最高のウインクを投げかけて、こんなメッセージを届けよう。


うらやましかったら、早くおいで。



さあ、素敵な、おじサマーの始まりである。