犬だって言いたいことがあるのだ。

ものごとをひとつ先に進めるアイデアについて考えています

ご結婚とか、正気じゃない。





えー。



えーただいまご紹介にあじゃ、あじゃじゃじゃじゃ、あじゃじゃりました、新郎の友人の僕です、どうも、僕であります。


えー。


ええと今日はこのようなおめでたい席に呼んでいただき、おまけにこんなスピーチ的な鯛焼き、あいや大役を仰せつかられらりられらりりまして、もうなんだか緊張しちゃって、たはは。

あー。

しかし、その、あれですねー。

まあよくもこんなご時世にお二人は結婚することを決めたなあと思いますです。

世の中には酔狂な人たちもいるんだなあって。

だってそうじゃないですか、聞けば新郎も新婦も、結婚しても二人ともしばらく働き続けるとかいうじゃないですか、それじゃ何の控除も受けられないわけですよ、むしろこんな盛大な結婚式を開いて、おまけにこんな若い人ばっかり呼んじゃったらお祝儀でペイもできなさそうだし、まあ酔狂だよなって思いますよね。

別におかしなことは言ってませんよ。

お二人は愛し合って一緒になることを決めたわけですから、愛さえあれば別に形にこだわる必要なんかなくて、むしろ体面とか慣習とか周囲からの評判とか、そういうことを気にするあまりに結婚という選択をするのだとしたら、まあその程度のものってことですよね、お二人の関係なんて。

あーしまった。

つい夢中になって忘れてました、どうぞお二人ともご着席なさってください、まあおかけください、あら何を揃ってそんな真っ赤な顔してるんですか、え、もう座る気にもなれないなら、まあどうぞそのままで結構です、たはは。


だけど妙な話だなあ。


お二人とも、さっきチャペルで永遠の愛を誓いあってたわけじゃないですか、病める時も、健やかなる時もって。

なら別に結婚してる時もしてない時も永遠に愛し合ったらいいわけで、それなのにわざわざ結婚なんてするもんですかね、やっぱりあんたら酔狂だ。

酔狂ついでに申し上げますけど、あと子育てなんてもんはこれまた酔狂な作業ですよ、生まれてきた時の赤ん坊なんてえのはもうしわくちゃの水ダコみたいな顔してて別にかわいいとかそんなんじゃねえし、おまけに奥さんのおっぱいはそこからしばらくは旦那さんのもんじゃなくなっちまうし、そもそもこのおっぱいはあんたのもんじゃなくて元来あたしのもんだみたいな夫婦喧嘩になるなんてのは聞いたことはないけど思ってる人はいると思うんですよ。

でまあようやく子供ってのは自分の理想どおりになんざあこれっぽっちも育たないんだと気づいた時には親の介護ですよ。

ほらそこにご両家の親御さんがずいぶん眉間に深ーいシワを寄せて鎮座ましますけれど、あのシワがもう全身に回っちまって、しわくちゃの状態になった時には本当に大変だ。

なにしろ自分の親を介護するだけでも一苦労なのに、その苦労が倍になるんだから、そりゃ結婚なんざほんともう酔狂な慈善事業としか思えない。

え、それがわかっているならどうかご両家のお父さまもお母さまもぜひともピンピンコロリで頼みますよと、この場を借りてお願い申し上げる次第であります。


だからですよ。


結婚するってえのは、お二人にそれぐらいの覚悟があって、だけど好きで好きでしょうがねえのか、あるいは世間体が気になってしょうがねえのか、まあ色々と事情はあるんでしょうけど、とにかくこうやって、自ら苦難の道を選ぼうとしている酔狂な選択なわけで。

結婚したら勝ち組とかまあ誰が言い出したのか、ふざけんじゃあねえ。

むしろ完全に不利な状況の中からなんとか何かを形にしていこうとする超リスキーな起業みたいなもんであって、その超危険な第一歩をあんたがたは今日踏み出しちまったわけだ。


闘いですよ。


自分の弱っちい心と、世間からのプレッシャーと、よくわかんねえ常識と言う名の非常識との、これは闘いなんですよ。

僕なんか結婚してからもう負けっぱなしだ、もう連戦連敗で、ほんと妻のアイデアと行動力と優しさがなければもうさっさと白旗上げて、毎日仕事だけしていればいい人生へと舞い戻ってますよ、それはそれで大変だけど、しかし少なくとも仕事以外のことを考えずには済むってもんだ。


だからね。


今日はどうもめでてえ席だとは聞いてますけど、おめでとうなんてえウソは言いません。

ただ、しっかりと二人で闘ってください。

闘って、闘って、ちゃんと何かをつかみとって、で二人でそれを握りしめながら、ああこの世の中ってえのはそれほど捨てたもんじゃなかったな、それなりにオレたちアタシたちの人生って面白いことがいっぱいあって、まあよく考えりゃたっぷりと楽しめたなあって思いながら永遠の眠りにつくことを祈っております。


それが本当の愛ってえもんじゃあねえのかと思うんですよ。


えー、そして奇しくもこの場に居合わせているみなさんは、どうかこの二人がいつかそんな名誉の戦死を遂げられるように、草葉の陰から見守っていただきたいってそれ先に死んでるじゃねえかこの野郎。

ええと、そんなわけで非常に手短かではございますが、お二人のこれからの長い長い闘争が無事に素敵な結末を迎えられることを祈りつつ、僕のスピーチを終えたいと思います。

ご静聴、ありがとうございました。


どうかお二人が、愛と勇気とともにありますように。