「ふーん・・・」の甘い罠

 

 

 

 

 

僕の弟は、小学校の頃、星新一さんのショートショートが大好きで

僕もそれを借りて、よく読んでいた。

その中で「ふーん現象」という話がある。

 

テレビからどんなショッキングなニュースが流れていても

「ふーん・・・まあ、そんなもんなんだろうな」

と、何も感じなくなる人が急に増えはじめる。

そのうち、彼らは周りのあらゆる出来事に関心を失ってゆき

大きな社会問題となっていくという話なのだが

なぜかこのショートショートを、僕はよく覚えている。

子供でもリアリティーを感じられるほど

世相をよく反映した物語だったのだろう。

 

そして、大人になった今、

僕自身がこの「ふーん現象」と戦わなきゃいけない

日々を送っている。

 

 

一番大きな原因は、インターネットだとは思う。

 

アイデアを考えていて、

あ、これはちょっと新しいかなとか

面白いかなと思ったことでも

試しに検索すると、すぐに引っかかってくる。

おまけに、たくさんのはてブがついていたりすると

あ、もういいや、この切り口は誰かが見つけてる・・・

とすぐにあきらめてしまう。

 

世の中のありとあらゆる天才たちが

毎日、何かをインターネットに発信し続けているのだから

1人の凡人が考えつくことなんて、本当にたいしたことがない。

そういうことに、僕は毎回気づかされ、落ちこむ。

 

おまけに、周りの人々の目や耳はどんどん肥えていく。

いくら僕が、これは面白いはずだ、と思って熱っぽく語っても

みんな一様に、小さくうなずいてから、一言。

「ふーん・・・そんなこと誰かもネットに書いてたな。まあ、そんなもんだろうな」

 

これが「ふーん現象」じゃなくて何だというのだ。

 

 

この「ふーん現象」が恐ろしいのは

ものすごく感染力があるところだ。

先ほどのようなやりとりを繰り返していると

今度は、なんとか相手に話を伝えようとしている僕自身が

相手の反応に飽きてくるのである。

 

これは面白いんじゃないかと思って話しても

相手は常に「ふーん・・・」なので

僕のほうも、そのリアクションに対して、こう思う。

「ふーん・・・この話も知ってるんだな。まあ、そういうもんだろな」

 

そもそも、僕のアイデア自体が面白いかどうかというのもあるが

それにしても最近は特に「ふーん現象」は猛威をふるっていると感じる。

 

これは決して批判ではないのだが、

自分よりも若い人と話していると、それが如実だ。

こんなことすると面白いよ、とか

こういうことをすると失敗するよ、とか

先輩風を吹かすと、後輩の目は

「ふーん・・・そんなこと、こっちが知らないと思っているのだろうか・・まあ、そういうもんだろな」

と言っている。

そんな彼らの気を引くのはすごく難しい。

まあ、そのへんは昔からそういうものなんだろうけどな。

と、僕はまた「ふーん・・・」と言うことになる。

 

 

そもそも、この「ふーん現象」自体、別に悪いことではない、

という立ち位置もあると思う。

インターネットの発達によって色んな知識が得られるようになり

人々の知的レベルが向上した。

その結果、これまでのようなレベルのアイデアでは

誰も満足しなくなってきただけだ。

そういう捉え方もあるだろう。

 

だけど、少なくとも、僕自身にとっては

「ふーん現象」は、とても危険で、絶対に避けたい現象なのだ。

 

それは好奇心を奪うものだからだ。

 

新しいものを生みだすためには、

得体の知れないものや、理解不可能なものに対して

いつも強い関心を持っておく必要がある。

その得体の知れないものをいつか捕まえてやろうと

ワクワク、ドキドキする気持ちこそが

次の思考と、行動へとつながるからである。

 

一度、この原動力を失ってしまえば

僕は何を頼りに暮らしていけばいいのか

さっぱりわからないのだ。

 

 

では、「ふーん現象」に対する特効薬はあるのだろうか。

 

僕には1つだけ頼りにしている常備薬がある。

それは、敬愛するトラブルメーカー先輩が教えてくれた

魔法の呪文。

 

「何これ、めちゃめちゃ面白い!」

 

もし、つい「ふーん・・・」とつぶやきそうになったら

ぜひ、この言葉を声に出してみてほしい。

急に、これまで自分がやってきたことが

バカバカしくなるはずである。

 

そして、自分の理解できない課題に直面しても

それを理解できない、と言える勇気を失ってしまい、

新しい情報に対して臆病になってしまっている自分自身を

「ふーん・・・まあ、そういうもんだろな」と

つぶやくことで、だますこと。

 

それが、「ふーん現象」の正体だということが

たちどころにわかるだろう。