偉大なるアマチュアは、本当に偉大なのか?

 

 

 

 

 

最近、あまりにも忙しくて

はてなブログを更新する余裕がなかった。

ちょっと悲しい。

 

その間に、はてなブログは1周年を迎えていたり

東京の新オフィスが女子をこじらしていたり

どうぶつの森のプレイ日記が

書きやすくなっていたりしていた。

 

世の中って本当にスピードが速いなあと思うけど

とはいえ、その流れに抗ったって無駄だし

また、無理に乗っかろうとする必要もない。

そんな世界の中で、今日も無事に生きて

ブログを書ける喜びをかみしめられたらいい。

 

 

さて、今日は、久しぶりに僕の仕事仲間の話。

 

 

バンギャルド先輩である。

 

 

彼はいわゆる「数字を持っている」人間で

そういう意味では会社では「優秀な」会社員なのである。

(僕は「優秀な人」とか「できる人」とかいう言葉が嫌いだが)

そして、プライベートでは前衛的な音楽アーティストとして活動していて

海外でも活動が報じられるくらい、「その道」では有名らしい。

 

ちなみにこのアバンギャルド先輩は

トラブルメーカー先輩と犬猿の仲で

お互いに無駄に嫌いあっている。

 

トラブルメーカー先輩の話は前にちょっと書いた。

http://inujin.hatenablog.com/entry/2012/10/13/000000

 

で、たぶんその原因のほとんどは

トラブルメーカー先輩にあるのだろうけど

僕にとっては、トラブルメーカー先輩のダメさ加減を

笑って許せるかどうかが

その人の度量の深さ加減と思っているので

まあそういう意味ではアバンギャルド先輩は

そんなに心の広い人間ではないのだ。

 

 

で、アバンギャルド先輩は

この「優秀な会社員」と「前衛芸術家」という

2足のわらじを両立させながら生活している。

 

僕は何度か彼の音楽を聴きに行っているけど

本当にすごかった。

この人は、体の中に、大量のエネルギーを持っているんだな、

と思ったし、ちょっと感動もした。

 

当然のごとく、僕は聞いた。

先輩は、アーティスト1本で生きていくつもりはないんですか。

すると彼は、いつも同じような質問をされ続けているのだろう、

ちょっと食傷気味に、しかし誇らしげに言った。

 

「そのつもりはないね。僕は偉大なるアマチュアでいいんだよ」

 

それはなぜ、とまで聞くつもりはなかった。

たぶん、アーティストとして食べていくのは

とても大変なのだろう。

彼には家族がいるし、マンションのローンも残っているし

まあ、そういうことなのだ。

僕はあいまいにうなずいて

それ以上、この話題を広げようともしなかった。

 

 

それからしばらくして、僕はアバンギャルド先輩と

仕事のことで、ちょっと揉めた。

直接の理由は色々あって、結果的には

僕が我慢できずにキレたので、まあ僕が悪いのである。

 

それにしても、あまりにも彼は

僕の仕事に対する思いに無頓着だった。

 

こんな内容のことを依頼したら

制作者としては気分悪いんじゃないかな、とか

やりにくいんじゃないかな、とか言うことを

平気で頼んでくる。

 

で、僕が不機嫌なことに気づくと

食事に誘ったりして懐柔しようとするのだけど

何が問題であるのかには気づいていない。

 

まあ、そんなことは仕事の中では

日常茶飯事であって、

何を怒っているのだろうと

自分でも思うことはあった。

 

それでもなぜか腹が立つのはたぶん、

「自分も音楽における表現者であるのに

なぜ同じ表現者の気持ちがわからないのだろう」

ということなのだと思う。

 

つまり、僕はアバンギャルド先輩に対して

自分のことを理解してくれるのではという

甘えがあったのだろう。

 

 

揉め事があってからしばらくして

僕は彼を昼食に誘った。

で、僕は自分が感じていることを

できるだけ正直に話してみた。

 

彼は彼なりの真摯さをもって話を聞いてくれた。

そして、僕が話し終わると、深くうなずいてから言った。

 

「なるほど、いぬじん君の気持ちはよくわかったよ。

君がそこまで仕事に対して真剣なのは知らなかった」

 

それから彼はすごく良いことを思いついたように

目をキラキラさせて、続けた。

 

「だからこれは親切心からのアドバイスだけど

やっぱり君はこの会社とか広告代理店とかで

働くには向いてないんじゃないか?

もっとクリエイティブな世界に移ったほうが

いいのじゃないかい?」

 

僕はがっかりしてしまって

あいまいな表情を顔に浮かべるがせいぜいだった。

 

そういうことを求めて話をしたんじゃない。

お互いに表現の世界に生きる者同士、

少しずつ歩み寄ろうぜと、そう言いたかっただけなのだ。

 

要は、彼は自分が昼間に属している世界に対しては

一切の表現やクリエイティブの要素を求めていないし

それを認めるつもりもないのである。

 

あくまで商売のための手段として

機能しているようなものなど

表現でも、クリエイティブでも、

そしてもちろん芸術でもないのである。

 

 

たぶん、彼の言っていることのほうが正しいのだろうし

そういう考えでいたほうが、ずっと楽なのだろう。

商売と芸術は別物だ、と割り切っているのだから

ある意味、彼のほうが僕よりも潔癖なのだ。

 

しかし、僕は思うのである。

 

世の中には、色んなことを

割り切れずに生きている人間がたくさんいるのだ。

そして、その割り切れなさの中に

悩みがあり、悲しみがあり、そして喜びがある。

そういうドロドロ、グチャグチャしたことを

知っている人間じゃないと

本当に共感できる表現はできない。

 

もしアバンギャルド先輩が

本当に偉大なアーティストであるならば

彼だって、色んな矛盾に直面しているはずだし

それに鈍感でいられるとは思えない。

 

きっと、彼だってさまざまな問題を抱えながら

必死に戦っているのだろう。

おそらく、僕以上に真剣に。

 

その悩みを昼間の仕事に持ち込むのは

彼には耐えられないことなのだと思う。

 

 

インターネットの普及とともに

いわゆるプロの表現者とアマチュアの表現者

垣根が低くなっていった。

今やプロではない人のほうが

ずっと面白いものを作れたりもする。

もはやプロとかアマチュアとかいう言葉自体も

意味を失いつつある。

 

だったら余計に思う。

 

表現をする者としての辛さだったり

苦しみだったりを、より多くの人が体験しつつあるはずだ。

 

面白い企画を考えつけない苦しさや

一度ヒットして調子に乗ったあと

すぐに相手にされなくなる時の孤独感、

そしてほんのわずかでも

自分の試みに賛同してくれた人々が

いたときの喜び。

 

それらをお互いにもっと共有しあおう。

馴れ合いではなく、本当に努力している相手には

惜しみなく敬意を払おう。

 

その時にはじめて、何かが次の段階へと

進むんじゃないだろうかと思っているのである。